今、一日の楽しみの一つが帰りながらの読書だ。
ずっと読みたかったのだけれど、文庫化されるまで待っていた1Q84。
やっと文庫その1を読み終えたところだけれど、昔とも今までとも違う村上春樹さんの作り出す小説世界に引き込まれている。
初期の作品は、自分が非情に調子悪かったときに読んだこともあるが、文章は平易でも描かれる事象が象徴的過ぎて理解するのは難解だった。
それ以降大体の中長編は読んできた。
時を経るごとに、村上さんの小説世界は少なくとも僕の中には消化されやすくなってきている。
今まで一番好きだったのは「ねじまき鳥~」だが、「海辺のカフカ」も読みやすかった。1Q84と似た作風と言えば「世界の終り~」なのだろうが、なぜか僕にとっては二つの世界のつながりのようなものが理解できなくて難しすぎた。
そして1Q84。
まだ物語が動き出したといったところだろうが、非常に興味深い、魅力ある作品だ。
僕が感じる今までとの違いは、物語の情景がよりイメージしやすいものになっていることと、伏線が張られているのではないかと思わせる部分が多く、先を読むのがとても楽しみになる仕掛けがされていることだ。
もちろん、比ゆ的でスタイリッシュな文章は健在だし、それぞれの登場人物が個性的で際立っているということもある。
とにかく、読み終えたときにとても大切な何かに気付かせてくれるような、そんな人生の一冊になってくれるといいなと思う。
ずっと読みたかったのだけれど、文庫化されるまで待っていた1Q84。
やっと文庫その1を読み終えたところだけれど、昔とも今までとも違う村上春樹さんの作り出す小説世界に引き込まれている。
初期の作品は、自分が非情に調子悪かったときに読んだこともあるが、文章は平易でも描かれる事象が象徴的過ぎて理解するのは難解だった。
それ以降大体の中長編は読んできた。
時を経るごとに、村上さんの小説世界は少なくとも僕の中には消化されやすくなってきている。
今まで一番好きだったのは「ねじまき鳥~」だが、「海辺のカフカ」も読みやすかった。1Q84と似た作風と言えば「世界の終り~」なのだろうが、なぜか僕にとっては二つの世界のつながりのようなものが理解できなくて難しすぎた。
そして1Q84。
まだ物語が動き出したといったところだろうが、非常に興味深い、魅力ある作品だ。
僕が感じる今までとの違いは、物語の情景がよりイメージしやすいものになっていることと、伏線が張られているのではないかと思わせる部分が多く、先を読むのがとても楽しみになる仕掛けがされていることだ。
もちろん、比ゆ的でスタイリッシュな文章は健在だし、それぞれの登場人物が個性的で際立っているということもある。
とにかく、読み終えたときにとても大切な何かに気付かせてくれるような、そんな人生の一冊になってくれるといいなと思う。
人生で影響を受けた本
2012年1月26日 読書最近、また本を読み始めた。といっても日に30ページも読まないので、一冊を読むのに2週間はかかる。それでも僕の読書熱は再び沸騰しつつある。
それで、ふと思った。
今まで読んだ中で、自分を形作ったといえるような本はなんだろうかと。
すぐに思いついたところでいえば、
『火の鳥』手塚治虫
『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス
『孟嘗君』宮城谷昌光
は外せないだろう。
『火の鳥』は小学校の時に読んで、命というものを考えるきっかけを作ってくれた。
『アルジャーノンに花束を』は中学の時に、自分をチャーリー・ゴードンに重ね合わせて涙した。
『孟嘗君』は高校時代に読んで、偶然と怠惰の結果そうなったのだが、大学での勉強に道筋をつけてくれた。
他にも印象に残っている本を挙げると
『813の謎』(児童書)
『ああ無情』(児童書)
『ヴェニスの商人』(児童書)
『路傍の石』
『はだしのゲン』
『銀河英雄伝説』田中芳樹
『三国志』横山光輝
『ブッダ』手塚治虫
『アドロフに告ぐ』手塚治虫
『塩狩峠』三浦綾子
『金閣寺』三島由紀夫
『李陵・山月記』中島敦
『沈黙』遠藤周作
『テロリストのパラソル』藤原伊織
『大地』パールバック
『重力ピエロ』伊坂幸太郎
『パイロットフィッシュ』大崎善生
・・・・・
だろうか。
作家としては、
手塚治虫、宮城谷昌光、村上春樹、大崎善生、伊坂幸太郎(敬称略)
ははっきりと好きだといえる。あと片山まさゆきとか『天牌』とかも。
こうしてみると意外とすぐ思いつく本は少ないなと感じる。
読んだ本はすべて何らかの形で自分を形作ってくれたとは思うが、その中でも自分の細胞に深く刻まれている本はわずかしかない。
生きているうちにあと何冊そんな本を読めるだろうか。これからは一つ一つの出会いを大切にしたい。
それで、ふと思った。
今まで読んだ中で、自分を形作ったといえるような本はなんだろうかと。
すぐに思いついたところでいえば、
『火の鳥』手塚治虫
『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス
『孟嘗君』宮城谷昌光
は外せないだろう。
『火の鳥』は小学校の時に読んで、命というものを考えるきっかけを作ってくれた。
『アルジャーノンに花束を』は中学の時に、自分をチャーリー・ゴードンに重ね合わせて涙した。
『孟嘗君』は高校時代に読んで、偶然と怠惰の結果そうなったのだが、大学での勉強に道筋をつけてくれた。
他にも印象に残っている本を挙げると
『813の謎』(児童書)
『ああ無情』(児童書)
『ヴェニスの商人』(児童書)
『路傍の石』
『はだしのゲン』
『銀河英雄伝説』田中芳樹
『三国志』横山光輝
『ブッダ』手塚治虫
『アドロフに告ぐ』手塚治虫
『塩狩峠』三浦綾子
『金閣寺』三島由紀夫
『李陵・山月記』中島敦
『沈黙』遠藤周作
『テロリストのパラソル』藤原伊織
『大地』パールバック
『重力ピエロ』伊坂幸太郎
『パイロットフィッシュ』大崎善生
・・・・・
だろうか。
作家としては、
手塚治虫、宮城谷昌光、村上春樹、大崎善生、伊坂幸太郎(敬称略)
ははっきりと好きだといえる。あと片山まさゆきとか『天牌』とかも。
こうしてみると意外とすぐ思いつく本は少ないなと感じる。
読んだ本はすべて何らかの形で自分を形作ってくれたとは思うが、その中でも自分の細胞に深く刻まれている本はわずかしかない。
生きているうちにあと何冊そんな本を読めるだろうか。これからは一つ一つの出会いを大切にしたい。
九月の四分の一 (新潮文庫)
2012年1月21日 読書
『パイロットフィッシュ』→『アジアンタムブルー』を読んでから大好きな作家さんのうちの一人になった大崎善生さんの短編集。
この人の書く文章の響きは僕にしっくりと馴染んでその世界に引き込まれている。一方的な思いだが、ここまで相性が良いなと思う作家さんはめったにいない。
僕が思うのは、大崎さんの文章には「生きること」についての問いが息づいているということだ。主人公が他の登場人物や自分自身を俯瞰しているように感じることが多いのがその理由だ。
一般的には救いようのない出来事を描くときにも、単に感情を爆発させるのような描き方よりは、その感情の出所への問いを優先させているように思うのだ。そのようなあふれ出た感情の描き方がとても心に響く。そして文章が優しさと哀しさに満ちている。
まだ出版されている本の3分の1も読めていないので、あまり語る資格はないけれども、これからも読んでいきたい魅力ある作家さんだ。
この人の書く文章の響きは僕にしっくりと馴染んでその世界に引き込まれている。一方的な思いだが、ここまで相性が良いなと思う作家さんはめったにいない。
僕が思うのは、大崎さんの文章には「生きること」についての問いが息づいているということだ。主人公が他の登場人物や自分自身を俯瞰しているように感じることが多いのがその理由だ。
一般的には救いようのない出来事を描くときにも、単に感情を爆発させるのような描き方よりは、その感情の出所への問いを優先させているように思うのだ。そのようなあふれ出た感情の描き方がとても心に響く。そして文章が優しさと哀しさに満ちている。
まだ出版されている本の3分の1も読めていないので、あまり語る資格はないけれども、これからも読んでいきたい魅力ある作家さんだ。
ゴールデンスランバー
2009年6月8日 読書
一年近く前に読んだ本のレビューを書くのもどうかと思う。記憶もあいまいだし、内容もあまり残っていない。
それでも、この一冊はツボだった。確かに主人公の虚像が次第に明らかにされていく点や、心温まる脇役達との交流、見事な伏線と言った素晴らしい点はたくさんある。しかし、僕が言いたいのはそんなところではない。
舞台が仙台なのだ。しかも、僕が過ごした街の風景を思い起こさせる場面がわんさか出てくる。
「爆破事件が起こったのはあの路地で・・・」
「おしゃべりしていたファーストフード店はきっとあそこで・・・」
「花火工場はあの辺で・・・」
「逃げ回った国道は僕の通ったあの通りで・・・」
「クライマックスのマンホールはあの公園のあそこだろうし・・・」
「出てくる川のあたりは大学の裏側で・・・」
と一人勝手に想像を膨らませては郷愁に浸っていた。
これだから伊坂幸太郎はやめられないのだ。
それでも、この一冊はツボだった。確かに主人公の虚像が次第に明らかにされていく点や、心温まる脇役達との交流、見事な伏線と言った素晴らしい点はたくさんある。しかし、僕が言いたいのはそんなところではない。
舞台が仙台なのだ。しかも、僕が過ごした街の風景を思い起こさせる場面がわんさか出てくる。
「爆破事件が起こったのはあの路地で・・・」
「おしゃべりしていたファーストフード店はきっとあそこで・・・」
「花火工場はあの辺で・・・」
「逃げ回った国道は僕の通ったあの通りで・・・」
「クライマックスのマンホールはあの公園のあそこだろうし・・・」
「出てくる川のあたりは大学の裏側で・・・」
と一人勝手に想像を膨らませては郷愁に浸っていた。
これだから伊坂幸太郎はやめられないのだ。
アヒルと鴨のコインロッカー
2008年6月18日 読書
先に映画を見てしまったのだが、伊坂幸太郎の作品の中でも評判が良いようだったので、あえて読んでみた一作。
映画を見て以来、これがどんな小説になっているのだろうと気にはなっていたが、椎名〔現在〕と琴美〔二年前〕の二人の語り手が交互に話を紡いでいく形で、謎が次第に明らかにされるという展開だった。実際、映画を見てしまっていただけに、最初に読み始めた時から、物語に秘められている謎は全て知っていたので、読んでいてその急転直下的な種明かしに驚くことはなかった。でも、きっとこういう推理小説的な(実際は推理小説ではないと思うが)、小説を二回読むとこんな感じなんだろうなといった感覚は味わうことが出来た。
話のあらすじは知ってはいたが、小説の詳細な部分には大いに興味が持てた。なんといっても『アヒルと鴨…』は仙台が舞台なのだ。「椎名の住んでる場所がどこで、ペットショップはどのあたりにあり、本屋はこんなところ」といった小説の舞台に関することは、自分の生活圏だった場所と重なっているだけに想像が膨らんだ。そして、椎名の通っている大学。これはきっと伊坂さんと同じ法学部という設定だけに、僕の過ごした場所でもあるのだろう。とても読んでいて嬉しかった。
まあ、もっともそんな仙台大好きな僕のような人でなくても、十分楽しめる小説だとは思う。会話や地の文でのやりとりや、人物のユニークさなど、娯楽的な要素も備えているし、一種の青春小説としても読めるだろう。多少癖があるだけに伊坂幸太郎の叙述形態が合わない人もいるだろうが、大体の人には読んで損をしたと後悔させない作品だと思う。
映画を見て以来、これがどんな小説になっているのだろうと気にはなっていたが、椎名〔現在〕と琴美〔二年前〕の二人の語り手が交互に話を紡いでいく形で、謎が次第に明らかにされるという展開だった。実際、映画を見てしまっていただけに、最初に読み始めた時から、物語に秘められている謎は全て知っていたので、読んでいてその急転直下的な種明かしに驚くことはなかった。でも、きっとこういう推理小説的な(実際は推理小説ではないと思うが)、小説を二回読むとこんな感じなんだろうなといった感覚は味わうことが出来た。
話のあらすじは知ってはいたが、小説の詳細な部分には大いに興味が持てた。なんといっても『アヒルと鴨…』は仙台が舞台なのだ。「椎名の住んでる場所がどこで、ペットショップはどのあたりにあり、本屋はこんなところ」といった小説の舞台に関することは、自分の生活圏だった場所と重なっているだけに想像が膨らんだ。そして、椎名の通っている大学。これはきっと伊坂さんと同じ法学部という設定だけに、僕の過ごした場所でもあるのだろう。とても読んでいて嬉しかった。
まあ、もっともそんな仙台大好きな僕のような人でなくても、十分楽しめる小説だとは思う。会話や地の文でのやりとりや、人物のユニークさなど、娯楽的な要素も備えているし、一種の青春小説としても読めるだろう。多少癖があるだけに伊坂幸太郎の叙述形態が合わない人もいるだろうが、大体の人には読んで損をしたと後悔させない作品だと思う。
自分にとってはかなり記念碑的作品になった遠藤周作さんの歴史小説。遠藤さんの小説はなんだか惹きつけられるものがあって、有名な作品はある程度読んできたが、この作品は読むのにかかった時間とは反比例して、あまり興味を持って読むことが出来なかった。歴史ものは結構好きなはずなのだが、どうも心理描写の面でいまいち盛り上がりに欠けるものがあった気がする。
では、なぜ記念碑的作品なのかというと、某古本屋さんで購入する際、最初に上巻を二冊チョイスしてしまい、改めて買い直そうとした時に、上巻と下巻どちらを買ったか忘れ、思い切って上巻を買ってしまったという不思議な行為に及んだからだ。つまり、都合上巻三冊がいまだに手元にあるという状況に陥ってしまった。どうせだから上巻を三回読もうかとまで考えたが、そこまでするほどに入れ込める小説でもなかったから、ただの本棚の肥やしになっているというのが現状。今までに同じ作品を二度買った経験はないだけに、そう意味で自分の中では記念の一作となった。
では、なぜ記念碑的作品なのかというと、某古本屋さんで購入する際、最初に上巻を二冊チョイスしてしまい、改めて買い直そうとした時に、上巻と下巻どちらを買ったか忘れ、思い切って上巻を買ってしまったという不思議な行為に及んだからだ。つまり、都合上巻三冊がいまだに手元にあるという状況に陥ってしまった。どうせだから上巻を三回読もうかとまで考えたが、そこまでするほどに入れ込める小説でもなかったから、ただの本棚の肥やしになっているというのが現状。今までに同じ作品を二度買った経験はないだけに、そう意味で自分の中では記念の一作となった。
映画も公開中の伊坂幸太郎さんの本。人の死の可否を判定するために当人に接触して調査する千葉という名の死神を主人公にした連作短編集。
読み始めて少し経った頃に、これは今まで読んだ伊坂さんの小説とは雰囲気が違うなと思った。なんと言ったらいいか分からないが、背景描写などにも暗さが前面に出ているにもかかわらず、その暗さが物語全体を支配せずに、なんとも言えないミステリアスな雰囲気を作り出しているといった感じを受けた。基本シリアスな展開が続くのに時にファニーな印象を受けるのも、読んでいて不思議な感じだった。僕にとってはかなり好印象だった。
死神に関しての設定に特殊なものが多いにもかかわらず、読んでいて違和感をほとんど感じないのも不思議な感じだった。死神が一般に認識されている恐怖の対象としてのそれではなく、死に関しては絶対的な権限を持ちながらも、万能ではなく、人間のことをそれほど熟知していないという設定にも何か惹かれるものがあった。死神のわりに人間臭さがあったというべきか。疑問に思うことを素直にぶつけるその一言が妙に哲学的であったりするのにははっとさせられることがあった。
よくよく考えてみれば、伊坂さんは長編小説のときにも細かく章を区切っていることが多い。そして群像劇を書くのが抜群にうまい。それを踏まえると今作のように短編を並べてみて、最後に横の関係を持たせてみるという小説の書き方は得意とするところなのだろう。各短編にも仕掛けが施してあり、全部を読み終わった後にも相互の関係性があることに新たに気づかされる。この二重のトリックにははまってしまうと抜けられない力がある。
個人的には長編より短編集の方がとっつきやすくて好きだ。『チルドレン』も結構好きだが、それとは雰囲気の違う今作も良かった。どれも精度は高かったが、個人的には「旅路を死神」が好きだ。『重力ピエロ』とのつながりが意外だったのと、仙台が出てきたから。
読み始めて少し経った頃に、これは今まで読んだ伊坂さんの小説とは雰囲気が違うなと思った。なんと言ったらいいか分からないが、背景描写などにも暗さが前面に出ているにもかかわらず、その暗さが物語全体を支配せずに、なんとも言えないミステリアスな雰囲気を作り出しているといった感じを受けた。基本シリアスな展開が続くのに時にファニーな印象を受けるのも、読んでいて不思議な感じだった。僕にとってはかなり好印象だった。
死神に関しての設定に特殊なものが多いにもかかわらず、読んでいて違和感をほとんど感じないのも不思議な感じだった。死神が一般に認識されている恐怖の対象としてのそれではなく、死に関しては絶対的な権限を持ちながらも、万能ではなく、人間のことをそれほど熟知していないという設定にも何か惹かれるものがあった。死神のわりに人間臭さがあったというべきか。疑問に思うことを素直にぶつけるその一言が妙に哲学的であったりするのにははっとさせられることがあった。
よくよく考えてみれば、伊坂さんは長編小説のときにも細かく章を区切っていることが多い。そして群像劇を書くのが抜群にうまい。それを踏まえると今作のように短編を並べてみて、最後に横の関係を持たせてみるという小説の書き方は得意とするところなのだろう。各短編にも仕掛けが施してあり、全部を読み終わった後にも相互の関係性があることに新たに気づかされる。この二重のトリックにははまってしまうと抜けられない力がある。
個人的には長編より短編集の方がとっつきやすくて好きだ。『チルドレン』も結構好きだが、それとは雰囲気の違う今作も良かった。どれも精度は高かったが、個人的には「旅路を死神」が好きだ。『重力ピエロ』とのつながりが意外だったのと、仙台が出てきたから。
キッドナップ・ツアー
2008年3月26日 読書
ISBN:4101058210 文庫 角田 光代 新潮社 2003/06 ¥420
これも去年の「新潮文庫の100冊」に選ばれていた本。なんとなくだけれど、出版社が特別に推薦している本は悪くない気がして手にとってみた。
小学5年の女の子が別居しているダメなお父さんに半同意的に誘拐(キッドナップ)されて、夏休みの貧乏旅行をする話だった。難しい言葉なしで、子供口調で語られる物語には多少戸惑いを覚えた。なんとなく自分はこんな言葉遣いしていなかったなぁと思ったので。ただ、父親に対しての、語られることのない感情やある時に思わず爆発する思いなどには、「そういう時期もあったなぁ」と自分の同時期を思い起こして懐かしくも感じた。父と娘の交流記といった形の児童文学であると思うし、主人公の女の子くらいの年齢のほうが読んでいて共感できる部分は多いと思う。または、子どもとのコミュニケーションに悩む親世代の人が対象かと。ただ、父が母に何を要求していたのかが最後まで明らかにされず、いまいちすっきりしない感じで話が終わってしまうのが残念だった。、もっとも明かされない方が想像力を掻き立てられていいのかもしれないけれど。軽く読める本ではあるけれども、好き嫌いは結構分かれそう。
これも去年の「新潮文庫の100冊」に選ばれていた本。なんとなくだけれど、出版社が特別に推薦している本は悪くない気がして手にとってみた。
小学5年の女の子が別居しているダメなお父さんに半同意的に誘拐(キッドナップ)されて、夏休みの貧乏旅行をする話だった。難しい言葉なしで、子供口調で語られる物語には多少戸惑いを覚えた。なんとなく自分はこんな言葉遣いしていなかったなぁと思ったので。ただ、父親に対しての、語られることのない感情やある時に思わず爆発する思いなどには、「そういう時期もあったなぁ」と自分の同時期を思い起こして懐かしくも感じた。父と娘の交流記といった形の児童文学であると思うし、主人公の女の子くらいの年齢のほうが読んでいて共感できる部分は多いと思う。または、子どもとのコミュニケーションに悩む親世代の人が対象かと。ただ、父が母に何を要求していたのかが最後まで明らかにされず、いまいちすっきりしない感じで話が終わってしまうのが残念だった。、もっとも明かされない方が想像力を掻き立てられていいのかもしれないけれど。軽く読める本ではあるけれども、好き嫌いは結構分かれそう。
西の魔女が死んだ (新潮文庫)
2008年3月19日 読書
ISBN:4101253323 文庫 梨木 香歩 新潮社 2001/07 ¥420
去年の「新潮文庫の100冊」に含まれていた作品。作家や作品への予備知識なしに読んでみた。
なにが上手なのかはっきりとは分からないが、親しみやすく温かい文章を書く人だという思いが読み進めていくにつれて深くなった。それでいて生きていくための指針となるような大切な言葉を、優しい文体に乗せて届けてくれる。決して人目を引くような文章でもないし、派手な展開が起きるわけでもないのに、とある日常の風景を描く中にこれだけ多くのものを含ませることが出来るのは正直に素晴らしいと思った。誰もが生きていく中でぶつかる苦悩が、誰にでも分かる言葉で綴られているところなどは非常に共感を覚えるし、夢に描くような自然の中での生活を心の豊かさと共に表すところなども、読んでいて心地よかった。
おそらく受賞している賞などから考えると、ジャンル的には児童文学に分類されるのだろうが、これは誰が読んでも納得できる作品だと思う。心がが温かくなる。もちろん多感な時期に読むのも感性が広がっていいだろう。こういう文章を書ける人がいるのを見つけられて良かったと思う。
去年の「新潮文庫の100冊」に含まれていた作品。作家や作品への予備知識なしに読んでみた。
なにが上手なのかはっきりとは分からないが、親しみやすく温かい文章を書く人だという思いが読み進めていくにつれて深くなった。それでいて生きていくための指針となるような大切な言葉を、優しい文体に乗せて届けてくれる。決して人目を引くような文章でもないし、派手な展開が起きるわけでもないのに、とある日常の風景を描く中にこれだけ多くのものを含ませることが出来るのは正直に素晴らしいと思った。誰もが生きていく中でぶつかる苦悩が、誰にでも分かる言葉で綴られているところなどは非常に共感を覚えるし、夢に描くような自然の中での生活を心の豊かさと共に表すところなども、読んでいて心地よかった。
おそらく受賞している賞などから考えると、ジャンル的には児童文学に分類されるのだろうが、これは誰が読んでも納得できる作品だと思う。心がが温かくなる。もちろん多感な時期に読むのも感性が広がっていいだろう。こういう文章を書ける人がいるのを見つけられて良かったと思う。
陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)
2008年3月18日 読書
ISBN:4396332688 文庫 伊坂 幸太郎 祥伝社 2006/02 ¥660
また読んでしまった伊坂作品。まず題名にセンスがあるなと思い、内容はどんなものだろうかと期待感が膨らんだ。結論から言うと、期待はずれではなかったが、期待通りでもなかったというところだろう。
まず、伊坂さん独特の伏線と群像劇的要素を織り交ぜた、テンポ良い展開にはさすがに引き込まれるところがあった。それに登場人物の特殊能力やウィットに富んだ会話などがスパイスになって楽しめたには楽しめたし、読んで良かったと素直に思える作品ではあったと思う。エンターテイメントとしてはかなり成功している。
しかし、だ。伊坂作品をほぼといっていいほど読んできた今となっては、上記のような物語を織り成す要素というのにはもう慣れがきてしまっていて、いまいち新鮮味に欠けたというのが実感だった。これ以上のものを求めるのは贅沢だとは思うし、読者レビューを読んでも10人中9人が絶賛しているのだからいいではないかという気にもなるのだが、まだ物足りなさを感じてしまう。
きっとこれは伊坂幸太郎に対する期待感から来るものだと思う。彼はきっとものすごい作品を書けるはずだといった期待感だ。誰もが驚くような仕掛けを施した作品をいつかは世に生み出すに違いない、と僕は思う。そのような将来的大作を基準にして考えると、やはり『陽気なギャング〜』はその前段階のジャブに過ぎないような感じがする。もっと大きく衝撃的なパンチを放って、読む者全てをKOしてくれることを願っている。
また読んでしまった伊坂作品。まず題名にセンスがあるなと思い、内容はどんなものだろうかと期待感が膨らんだ。結論から言うと、期待はずれではなかったが、期待通りでもなかったというところだろう。
まず、伊坂さん独特の伏線と群像劇的要素を織り交ぜた、テンポ良い展開にはさすがに引き込まれるところがあった。それに登場人物の特殊能力やウィットに富んだ会話などがスパイスになって楽しめたには楽しめたし、読んで良かったと素直に思える作品ではあったと思う。エンターテイメントとしてはかなり成功している。
しかし、だ。伊坂作品をほぼといっていいほど読んできた今となっては、上記のような物語を織り成す要素というのにはもう慣れがきてしまっていて、いまいち新鮮味に欠けたというのが実感だった。これ以上のものを求めるのは贅沢だとは思うし、読者レビューを読んでも10人中9人が絶賛しているのだからいいではないかという気にもなるのだが、まだ物足りなさを感じてしまう。
きっとこれは伊坂幸太郎に対する期待感から来るものだと思う。彼はきっとものすごい作品を書けるはずだといった期待感だ。誰もが驚くような仕掛けを施した作品をいつかは世に生み出すに違いない、と僕は思う。そのような将来的大作を基準にして考えると、やはり『陽気なギャング〜』はその前段階のジャブに過ぎないような感じがする。もっと大きく衝撃的なパンチを放って、読む者全てをKOしてくれることを願っている。
行きずりの街 (新潮文庫)
2008年3月12日 読書
ISBN:4101345112 文庫 志水 辰夫 新潮社 1994/01 ¥580
「’91 このミステリーがすごい第一位」という帯を掲げて、地元の本屋で大々的にフィーチャーされていたので、ミステリーってどんなものだろうと思って読んでみた作品。結論から言うと、帯にやられたなといった感じがする。
まず、話の本筋である教え子を探すというところの動機がいまいちしっくり来なかった。いずれ驚くような理由が入るのだろうと期待していたが、何もないまま終わってしまい、結局何のために死を賭してまで主人公が駆け回ったのかという疑問が消化不良のまま残ってしまった。そして、街の情景描写が自分にはくどすぎたし、しかもその情景を思い描くことが出来なかった。場面が変わるごとに、また主人公が移動するたびに街の様子が描かれているのだが、そこまで説明されても本筋と大きな係わり合いがあるとも思えなかったし、東京に不慣れな人にとっては想像力の範囲外といった感じなのではないか。もっともこれに関しては自分の想像力にも問題はあった。さらに、ここが一番の疑問点なのだが、この作品は本当にミステリーなのだろうかという思いが最後まで抜けなかった。隠された謎を解明していくというよりは、与えられた事実に従って主人公を行き当たりばったりと動かしているというような展開が繰り返されている気がして、ミステリーというよりはハードボイルド小説といった方が正しい感じもした。
たぶんこの小説は帯のつけ方を間違っていた気がする。「このミス一位」のうたい文句だけで踊った人は、おそらく失望を覚えたに違いない。きっとこの作者から離れてしまうだろう。読後にレビューを参照したところによると、この作者の本領は別の作品でこそ発揮されているらしい。人物描写や心情の機微、スピード感などは、この作品でも読ませてくれるところはあったので、かなり書ける人ではあるのだろうと思う。ただこの作品をミステリーと呼んでいいのかどうかは、賞を与えた側をも疑問に感じさせるところがあった。
「’91 このミステリーがすごい第一位」という帯を掲げて、地元の本屋で大々的にフィーチャーされていたので、ミステリーってどんなものだろうと思って読んでみた作品。結論から言うと、帯にやられたなといった感じがする。
まず、話の本筋である教え子を探すというところの動機がいまいちしっくり来なかった。いずれ驚くような理由が入るのだろうと期待していたが、何もないまま終わってしまい、結局何のために死を賭してまで主人公が駆け回ったのかという疑問が消化不良のまま残ってしまった。そして、街の情景描写が自分にはくどすぎたし、しかもその情景を思い描くことが出来なかった。場面が変わるごとに、また主人公が移動するたびに街の様子が描かれているのだが、そこまで説明されても本筋と大きな係わり合いがあるとも思えなかったし、東京に不慣れな人にとっては想像力の範囲外といった感じなのではないか。もっともこれに関しては自分の想像力にも問題はあった。さらに、ここが一番の疑問点なのだが、この作品は本当にミステリーなのだろうかという思いが最後まで抜けなかった。隠された謎を解明していくというよりは、与えられた事実に従って主人公を行き当たりばったりと動かしているというような展開が繰り返されている気がして、ミステリーというよりはハードボイルド小説といった方が正しい感じもした。
たぶんこの小説は帯のつけ方を間違っていた気がする。「このミス一位」のうたい文句だけで踊った人は、おそらく失望を覚えたに違いない。きっとこの作者から離れてしまうだろう。読後にレビューを参照したところによると、この作者の本領は別の作品でこそ発揮されているらしい。人物描写や心情の機微、スピード感などは、この作品でも読ませてくれるところはあったので、かなり書ける人ではあるのだろうと思う。ただこの作品をミステリーと呼んでいいのかどうかは、賞を与えた側をも疑問に感じさせるところがあった。
ラッシュライフ (新潮文庫)
2008年3月7日 読書
ISBN:4101250227 文庫 伊坂 幸太郎 新潮社 2005/04 ¥660
5つの話が、同時進行的に進んでいく群像劇。一言で言えばそういった趣の作品なのだが、単に5つの話が絡まるのではなく、最後までどのように話が関わっているのかがはっきりせず、話と話の関係性に時間トリックとでもいった化粧が施されている。連続して5つ(一章あたりで毎回出てくるのは4つ)の話を何回も読まされるため、その連続性に慣れが生じてしまい、後半で明かされてくる互いの話の関係性を捉えられたようで捉えきれないといった不思議さがこの小説を読む面白さにつながっていると思った。その話の関係性を除いて一つ一つの話を考えると、人物描写の面白さや他の伊坂作品とリンクをしているところなどは、この作者を好んで読んでいる人には多くの楽しみを与えてくれるだろう。ただ、ミステリーを読みたいと思って手に取った人にとっては、その欲求を十分に満たしてくれるかどうかは疑問。ミステリーだとか純文学だとかといったカテゴリー分けをしてこの作品を読んだとしても、スッキリしないものが残るだけだと思う。
なんとなく伊坂さんの作品は非常に面白いとか気になって仕方がないとかいう分類のものではないけれど、なにか惹かれるものがある。中毒的なものだろうか。次は『陽気なギャングが地球を回す』を読もうと考えているのだが、ここで問題が発生した。弟が今まさにその『陽気なギャング〜』のDVDを借りてきてしまっている。これを観るべきかどうかの葛藤が自分の中で発生している。
5つの話が、同時進行的に進んでいく群像劇。一言で言えばそういった趣の作品なのだが、単に5つの話が絡まるのではなく、最後までどのように話が関わっているのかがはっきりせず、話と話の関係性に時間トリックとでもいった化粧が施されている。連続して5つ(一章あたりで毎回出てくるのは4つ)の話を何回も読まされるため、その連続性に慣れが生じてしまい、後半で明かされてくる互いの話の関係性を捉えられたようで捉えきれないといった不思議さがこの小説を読む面白さにつながっていると思った。その話の関係性を除いて一つ一つの話を考えると、人物描写の面白さや他の伊坂作品とリンクをしているところなどは、この作者を好んで読んでいる人には多くの楽しみを与えてくれるだろう。ただ、ミステリーを読みたいと思って手に取った人にとっては、その欲求を十分に満たしてくれるかどうかは疑問。ミステリーだとか純文学だとかといったカテゴリー分けをしてこの作品を読んだとしても、スッキリしないものが残るだけだと思う。
なんとなく伊坂さんの作品は非常に面白いとか気になって仕方がないとかいう分類のものではないけれど、なにか惹かれるものがある。中毒的なものだろうか。次は『陽気なギャングが地球を回す』を読もうと考えているのだが、ここで問題が発生した。弟が今まさにその『陽気なギャング〜』のDVDを借りてきてしまっている。これを観るべきかどうかの葛藤が自分の中で発生している。
アムリタ〈上〉 (角川文庫)
2008年2月23日 読書
ISBN:4041800048 文庫 吉本 ばなな 角川書店 1997/01 ¥567
デジタルの対極に位置するオカルトの感覚は嫌いではないつもりだけれど、この本で書かれているそれには時についていけなかった。なんというか、そういう感性が自分の中でまだ磨かれてないのか、単純にばなな的な表現に免疫がなかったからなのかは定かではない。でも読んでいてそういうものが世の中にはあるということでは共感を覚えたし、あっても不思議ではないとも思えた。あくまで小説の中での話なので、作者がどれくらい本気で書いているのかは分からないが、信じられないようなことというのは人に起こりうるとは思った。たまにあまり読まない種類の作家さんに触れると、自分の中の意外な一面にも触れられる気がしていいものだ。
デジタルの対極に位置するオカルトの感覚は嫌いではないつもりだけれど、この本で書かれているそれには時についていけなかった。なんというか、そういう感性が自分の中でまだ磨かれてないのか、単純にばなな的な表現に免疫がなかったからなのかは定かではない。でも読んでいてそういうものが世の中にはあるということでは共感を覚えたし、あっても不思議ではないとも思えた。あくまで小説の中での話なので、作者がどれくらい本気で書いているのかは分からないが、信じられないようなことというのは人に起こりうるとは思った。たまにあまり読まない種類の作家さんに触れると、自分の中の意外な一面にも触れられる気がしていいものだ。
神様からひと言 (光文社文庫)
2008年2月12日 読書
ISBN:4334738427 文庫 荻原 浩 光文社 2005/03/10 ¥720
某古本屋で荻原(「おぎわら」であって「はぎわら」ではない)浩さんの本としては唯一100円で売っていた本。今までに少し読んだことがあった作家さんだったので、長らく放置されていた中から掘り出してトライしてみた。
裏表紙ではサラリーマンの奮闘記的な紹介のされ方だったので、ちょっととっかかりにくかったのだけれど、読み始めたら意外性の連続で軽く引き込まれてしまった。これで100円なら安すぎると正直申し訳なく思った。
そもそも荻原さんの作品はどれもが意外性に満ちている。まずテーマが多様。ユーモア的な軽い感じのものからシリアス、ハードボイルド、ヒューマンドラマなどなど書いているジャンルが一定しないほど、多彩な小説世界を描いている気がする。しかも文章が読みやすい。癖がないというかなんというか、僕にとっては違和感がほとんど生じない文章を書いてくれる。そして、ウィットに富んだ掛け合いがアクセントになっているから、文章にテンポがある。
久しぶりに長編小説を読んですっとした感じになった。多少展開に強引さを感じさせるところもあるにはあったが、それを打ち消すだけの小ネタを備えているところが書き手の深みを表しているのだろう。デビューが遅いにもかかわらず、作家としての完成度が高いのも僕の中では好感度が高い。機会があったらまた別作品も読みたいと思う。
某古本屋で荻原(「おぎわら」であって「はぎわら」ではない)浩さんの本としては唯一100円で売っていた本。今までに少し読んだことがあった作家さんだったので、長らく放置されていた中から掘り出してトライしてみた。
裏表紙ではサラリーマンの奮闘記的な紹介のされ方だったので、ちょっととっかかりにくかったのだけれど、読み始めたら意外性の連続で軽く引き込まれてしまった。これで100円なら安すぎると正直申し訳なく思った。
そもそも荻原さんの作品はどれもが意外性に満ちている。まずテーマが多様。ユーモア的な軽い感じのものからシリアス、ハードボイルド、ヒューマンドラマなどなど書いているジャンルが一定しないほど、多彩な小説世界を描いている気がする。しかも文章が読みやすい。癖がないというかなんというか、僕にとっては違和感がほとんど生じない文章を書いてくれる。そして、ウィットに富んだ掛け合いがアクセントになっているから、文章にテンポがある。
久しぶりに長編小説を読んですっとした感じになった。多少展開に強引さを感じさせるところもあるにはあったが、それを打ち消すだけの小ネタを備えているところが書き手の深みを表しているのだろう。デビューが遅いにもかかわらず、作家としての完成度が高いのも僕の中では好感度が高い。機会があったらまた別作品も読みたいと思う。
チルドレン (講談社文庫 (い111-1))
2008年2月4日 読書
ISBN:4062757249 文庫 伊坂 幸太郎 講談社 2007/05/15 ¥620
伊坂さんの小説は仙台を舞台に描かれることが多いらしい。舞台でなくとも何らかの形で仙台が関わってくるとのことだ。仙台は僕が大学時代を過ごした街ということもあって、小説を読んでいて描写が出てくると懐かしさが胸にこみあげてくる。そして描かれている風景がどういう場所であるか思いを巡らす。よって、伊坂さんは僕にとって郷愁を誘う作家さんということになる。
今回の作品は短編集というよりは一人の人物にスポットを当てた連作短編といった感じだった。全部で五つの短編で構成されており、語り部も異なっている。どれもが読み終えてみると、謎が氷解したり心が和んだりする結末になっており、この前読んだ『グラスホッパー』よりも個人的には好きだった。今作を読むまでは、伊坂さんはなんとなく冷たい印象を与える文章を書く人なのかと思っていたが、面白みのある文章も書くんだなと考えを改めさせられた。作家の顔はやはり一つだけではないらしい。隠し持った武器をたくさん備えてこそ、幅の広い文章が書けるのだろう。
伊坂さんの小説は仙台を舞台に描かれることが多いらしい。舞台でなくとも何らかの形で仙台が関わってくるとのことだ。仙台は僕が大学時代を過ごした街ということもあって、小説を読んでいて描写が出てくると懐かしさが胸にこみあげてくる。そして描かれている風景がどういう場所であるか思いを巡らす。よって、伊坂さんは僕にとって郷愁を誘う作家さんということになる。
今回の作品は短編集というよりは一人の人物にスポットを当てた連作短編といった感じだった。全部で五つの短編で構成されており、語り部も異なっている。どれもが読み終えてみると、謎が氷解したり心が和んだりする結末になっており、この前読んだ『グラスホッパー』よりも個人的には好きだった。今作を読むまでは、伊坂さんはなんとなく冷たい印象を与える文章を書く人なのかと思っていたが、面白みのある文章も書くんだなと考えを改めさせられた。作家の顔はやはり一つだけではないらしい。隠し持った武器をたくさん備えてこそ、幅の広い文章が書けるのだろう。
ISBN:404384901X 文庫 伊坂 幸太郎 角川書店 2007/06 ¥620
前から気になっていた本で、最近ようやく読了した。『グラスホッパー』という題名にまず惹かれていて、どういう内容かも分からずに読み進めていった。(読み終わった後に調べたところグラスホッパー=バッタの意らしい)
話は非合法的会社の復讐と殺し屋の相克とを軸にして、三人の登場人物の視点で展開していく。殺し屋のキャラクターの濃さもさることながら、所々で交わされる会話にも面白さがあった。ラストに向かって収束していく物語にも期待感が膨らんでいって、読む楽しさが広がった。ただ自分は最近、先読みをしないで読んでいるからだろうか、「ああ、こうなるんだ」的な感覚でしか物語を捉えられていない気がする。ミステリー系のジャンルを読むのにそれでいいのかどうかは分からないが、行き当たりばったりとストーリーに引きずられているので、どうも予想が当たった外れたの感動がない。先読み能力がないのもどうしたものかなといった感じである。
でも、伊坂さんの作品は僕には合っていると感じる。理由はキャラクターの描き方がはっきりとしていることと、場面展開は多いけれどそのたびに話を区切ってくれているから。集中力がない最近の僕にとっては非常にありがたい物語の進め方をしてくれる。読んでいて苦痛に感じない本というのはやはりいいものだと思う。
前から気になっていた本で、最近ようやく読了した。『グラスホッパー』という題名にまず惹かれていて、どういう内容かも分からずに読み進めていった。(読み終わった後に調べたところグラスホッパー=バッタの意らしい)
話は非合法的会社の復讐と殺し屋の相克とを軸にして、三人の登場人物の視点で展開していく。殺し屋のキャラクターの濃さもさることながら、所々で交わされる会話にも面白さがあった。ラストに向かって収束していく物語にも期待感が膨らんでいって、読む楽しさが広がった。ただ自分は最近、先読みをしないで読んでいるからだろうか、「ああ、こうなるんだ」的な感覚でしか物語を捉えられていない気がする。ミステリー系のジャンルを読むのにそれでいいのかどうかは分からないが、行き当たりばったりとストーリーに引きずられているので、どうも予想が当たった外れたの感動がない。先読み能力がないのもどうしたものかなといった感じである。
でも、伊坂さんの作品は僕には合っていると感じる。理由はキャラクターの描き方がはっきりとしていることと、場面展開は多いけれどそのたびに話を区切ってくれているから。集中力がない最近の僕にとっては非常にありがたい物語の進め方をしてくれる。読んでいて苦痛に感じない本というのはやはりいいものだと思う。
黄色い目の魚 (新潮文庫)
2008年1月17日 読書
ISBN:4101237344 文庫 佐藤 多佳子 新潮社 2005/10 ¥660
前々から読みたいと思っていた本屋大賞受賞作家さんの作品。
僕は基本的に作品に対する偏見というか先入観というかをもたないようにするため、あまり作品に対する下調べはせずに読書に入るようにしている。もっとも裏表紙の作品紹介ぐらいは目を通すが。
ということで、どういう風に書かれているかも知らないまま読んでみたのだが、なんとなく自分は固めの文体の方が好みなのだろうか、当初は十代の主人公が一人称で語るその文体にどうも馴染めなかった。なんとなく『ライ麦畑でつかまえて』の訳本を読んだ時のような違和感があった。
でも、読み進めていくうちに輪郭がはっきりした登場人物の描き方や、不安定でどっちつかずな感情の表現方法に考えさせられる所があって、ページをめくるごとに小説の世界観に引き込まれていった。今となってはもう戻れない世界への郷愁とでもいうべきか、もう自分が主人公となって立つことのできない時代を思って多少空しくもなった。
結果、読んで思ったこととしては、この作品はあとがきにあるように十代のうちに読むべき本であると思う。まあ、その時代を過ぎた人が読んでも十分に楽しめるとは思うが。今まであまり読んだことはなかったが、「青春小説」というのはこういうものを言うのではないかな、と思わされる一作だった。
前々から読みたいと思っていた本屋大賞受賞作家さんの作品。
僕は基本的に作品に対する偏見というか先入観というかをもたないようにするため、あまり作品に対する下調べはせずに読書に入るようにしている。もっとも裏表紙の作品紹介ぐらいは目を通すが。
ということで、どういう風に書かれているかも知らないまま読んでみたのだが、なんとなく自分は固めの文体の方が好みなのだろうか、当初は十代の主人公が一人称で語るその文体にどうも馴染めなかった。なんとなく『ライ麦畑でつかまえて』の訳本を読んだ時のような違和感があった。
でも、読み進めていくうちに輪郭がはっきりした登場人物の描き方や、不安定でどっちつかずな感情の表現方法に考えさせられる所があって、ページをめくるごとに小説の世界観に引き込まれていった。今となってはもう戻れない世界への郷愁とでもいうべきか、もう自分が主人公となって立つことのできない時代を思って多少空しくもなった。
結果、読んで思ったこととしては、この作品はあとがきにあるように十代のうちに読むべき本であると思う。まあ、その時代を過ぎた人が読んでも十分に楽しめるとは思うが。今まであまり読んだことはなかったが、「青春小説」というのはこういうものを言うのではないかな、と思わされる一作だった。
東京奇譚集 (新潮文庫 む 5-26)
2008年1月12日 読書
ISBN:4101001561 文庫 村上 春樹 新潮社 2007/11 ¥420
五つの物語からなる短編集。奇譚という題に則ってありそうでなさそうな話を並べている。というか村上春樹さんの小説はどれもがありそうでなさそうな話な気もするけれど。
内容には特に触れないけれど、どの話も読ませるものであると感じた。読んでいて飽きなかったし、次を読みたいという気にさせる力があったと思う。分量的にも自分に合っていた。もともと長編小説を読むのには時間がかかってしまうので、このくらいの分量で短編小説だとちょこっと読むのに助かっていい。自分的には二つ目の「ハナレイ・ベイ」が一番面白かった。
村上春樹を知らない人も手軽に読める本ではないかと思う。「長編にチャレンジするのは気が引けるけれど、ちょっと気になる作家だな」なんていう人は、手にとって見るといいかも。結構好き嫌いは分かれるかもしれないけれど、この本である程度どういう作家さんかは感じることができるのではないだろうか。そういう意味で初心者から読み込んでいる人まで幅広い読者層に向けた本であると思う。
五つの物語からなる短編集。奇譚という題に則ってありそうでなさそうな話を並べている。というか村上春樹さんの小説はどれもがありそうでなさそうな話な気もするけれど。
内容には特に触れないけれど、どの話も読ませるものであると感じた。読んでいて飽きなかったし、次を読みたいという気にさせる力があったと思う。分量的にも自分に合っていた。もともと長編小説を読むのには時間がかかってしまうので、このくらいの分量で短編小説だとちょこっと読むのに助かっていい。自分的には二つ目の「ハナレイ・ベイ」が一番面白かった。
村上春樹を知らない人も手軽に読める本ではないかと思う。「長編にチャレンジするのは気が引けるけれど、ちょっと気になる作家だな」なんていう人は、手にとって見るといいかも。結構好き嫌いは分かれるかもしれないけれど、この本である程度どういう作家さんかは感じることができるのではないだろうか。そういう意味で初心者から読み込んでいる人まで幅広い読者層に向けた本であると思う。
村上朝日堂はいかにして鍛えられたか (新潮文庫)
2007年12月6日 読書
ISBN:4101001472 文庫 安西 水丸 新潮社 1999/07 ¥620
個人的に僕は、作家さんの個性はエッセイでこそ発揮されると思っている。小説や論説には出てこない話題や嗜好、言い回しなどが表れてきて、その他の種類の作品を読んでは分からないような意外な一面が感じられて面白い。今まで村上春樹さんの小説はそれなりに読んできたが、その既成イメージと重なる部分もあり、新たな発見もありといろいろな収穫があったような気がする。
書いている内容自体は、時に個性的な洞察が成されてはいるが、それほど驚くことではないし、極めて面白いものでもないかもしれない。ただしエッセイを読むというのは、というか読もうとする時点で、その作家さんに興味を抱いているということだろうと思う。そういう人にとっては、この本で村上春樹という作家に触れることができるだけで、十分目的を達成しているのではないかと思う。独特の言い回し(僕は「〜〜だろうけれど」というのが気になった)もあり、個人的な趣味の披露もありと、村上春樹さんがどういう人なのかを感じることが出来て、個人的には満足した。
ただ、氏の書いた小説についてのあとがき的なものや、作家論など、論説的エッセイを求める人にとっては、多少物足りないかもしれない。『週刊朝日』に連載されたコラム的を本にまとめて出版している都合上、個人的な考察やイデオロギー的なものは意図的に排除している観があるので、そのあたりは残念といえばそうだけれど、別のものに求めるしかないと思う。僕としては、些細なエピソードから漏れ出てくる村上さんの人柄がとても興味深かった。
個人的に僕は、作家さんの個性はエッセイでこそ発揮されると思っている。小説や論説には出てこない話題や嗜好、言い回しなどが表れてきて、その他の種類の作品を読んでは分からないような意外な一面が感じられて面白い。今まで村上春樹さんの小説はそれなりに読んできたが、その既成イメージと重なる部分もあり、新たな発見もありといろいろな収穫があったような気がする。
書いている内容自体は、時に個性的な洞察が成されてはいるが、それほど驚くことではないし、極めて面白いものでもないかもしれない。ただしエッセイを読むというのは、というか読もうとする時点で、その作家さんに興味を抱いているということだろうと思う。そういう人にとっては、この本で村上春樹という作家に触れることができるだけで、十分目的を達成しているのではないかと思う。独特の言い回し(僕は「〜〜だろうけれど」というのが気になった)もあり、個人的な趣味の披露もありと、村上春樹さんがどういう人なのかを感じることが出来て、個人的には満足した。
ただ、氏の書いた小説についてのあとがき的なものや、作家論など、論説的エッセイを求める人にとっては、多少物足りないかもしれない。『週刊朝日』に連載されたコラム的を本にまとめて出版している都合上、個人的な考察やイデオロギー的なものは意図的に排除している観があるので、そのあたりは残念といえばそうだけれど、別のものに求めるしかないと思う。僕としては、些細なエピソードから漏れ出てくる村上さんの人柄がとても興味深かった。
介子推 (講談社文庫)
2007年11月30日 読書
ISBN:4062637960 文庫 宮城谷 昌光 講談社 1998/05 ¥750
『重耳』のスピンオフというか、同物語を辛苦を共にした臣下の視点から描いた作品だったと思います。聖人的な感性を持ち、重耳に惚れ込む主人公介子推はもちろんのこと、重耳を付け狙い、暗殺を企て、介子推と対決するえん楚(えんは門に奄)など、人物が活き活きと描かれているのが印象的でした。内容的にも『重耳』を読んだ人には、うなずけるものだったのではないかと思います。『重耳』では見えてこなかった家臣団の苦難、特に介子推の活躍と苦悩が歯切れよく鮮やかに描かれているところなど、さすが宮城谷ワールドと思わされてしまいました。
ほぼ一文ごとに区切ってあることや、章立てがしっかりと成されていることで、文章を追いやすく、また漢字の使い方にかなりの気を遣われているんだろうと思われるほど、一語一語が丁寧に扱われている感じを受けました。前に読んだ『ドグラ・マグラ』とは、構成の点でかなりの違いがあった気がします。
宮城谷作品との出会いは高校時代に読んだ『孟嘗君』だったと記憶しています。その当時は、中国史といえば三国時代の小説しか読んだことがないくらいで、多少の興味はあったものの他の時代を探ってみようという気はたいしてありませんでした。というより、そのような良質な作品を書いている人がいることを知りませんでした。そのような時に、図書館で宮城谷さんの作品と出会いました。孟嘗君という人物は漢文かなにかで知っていたので飛びついてみたのですが、これに圧倒されました。まず、文章が美しい。そして、見たこともない漢字がその意味ぴったりと思われる箇所で使われている。そしてなんといっても人物が躍動している。一時期は宮城谷さんの作品ばかり読み漁っていたような記憶があります。
結果、大学でもちょっとだけ中国史の世界に入っていったわけです。そして最近、再び宮城谷さんの作品に触れているわけですが、本当にこの人はどれほどの苦労と困難を打ち破って物語を紡いでいるのかということに圧倒されます。まず、漢文を精読しているのは間違いないのですが、史実に外れないように丁寧に言葉を選んでいるところや、実在しない(?)人物をさりげなく創っていくところなど、僕には及びもつきません。本当に頭が下がります。
というわけで、宮城谷さんの作品を読むのは今後もライフワークにしたいですね。しばらくは他の人の作品を楽しんで、モチベーションを高めておこうと思います。
『重耳』のスピンオフというか、同物語を辛苦を共にした臣下の視点から描いた作品だったと思います。聖人的な感性を持ち、重耳に惚れ込む主人公介子推はもちろんのこと、重耳を付け狙い、暗殺を企て、介子推と対決するえん楚(えんは門に奄)など、人物が活き活きと描かれているのが印象的でした。内容的にも『重耳』を読んだ人には、うなずけるものだったのではないかと思います。『重耳』では見えてこなかった家臣団の苦難、特に介子推の活躍と苦悩が歯切れよく鮮やかに描かれているところなど、さすが宮城谷ワールドと思わされてしまいました。
ほぼ一文ごとに区切ってあることや、章立てがしっかりと成されていることで、文章を追いやすく、また漢字の使い方にかなりの気を遣われているんだろうと思われるほど、一語一語が丁寧に扱われている感じを受けました。前に読んだ『ドグラ・マグラ』とは、構成の点でかなりの違いがあった気がします。
宮城谷作品との出会いは高校時代に読んだ『孟嘗君』だったと記憶しています。その当時は、中国史といえば三国時代の小説しか読んだことがないくらいで、多少の興味はあったものの他の時代を探ってみようという気はたいしてありませんでした。というより、そのような良質な作品を書いている人がいることを知りませんでした。そのような時に、図書館で宮城谷さんの作品と出会いました。孟嘗君という人物は漢文かなにかで知っていたので飛びついてみたのですが、これに圧倒されました。まず、文章が美しい。そして、見たこともない漢字がその意味ぴったりと思われる箇所で使われている。そしてなんといっても人物が躍動している。一時期は宮城谷さんの作品ばかり読み漁っていたような記憶があります。
結果、大学でもちょっとだけ中国史の世界に入っていったわけです。そして最近、再び宮城谷さんの作品に触れているわけですが、本当にこの人はどれほどの苦労と困難を打ち破って物語を紡いでいるのかということに圧倒されます。まず、漢文を精読しているのは間違いないのですが、史実に外れないように丁寧に言葉を選んでいるところや、実在しない(?)人物をさりげなく創っていくところなど、僕には及びもつきません。本当に頭が下がります。
というわけで、宮城谷さんの作品を読むのは今後もライフワークにしたいですね。しばらくは他の人の作品を楽しんで、モチベーションを高めておこうと思います。
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