いつも下車する駅のコンコースのベンチで、僕はほぼ必ず休息を取る。
満員電車に揺られた疲労感を癒し、一日の活力を養うためなのだが、その休息には一つの楽しみがある。

僕がベンチに座ってから2、3分くらいすると新たな人波が押し寄せてくる。

その人波を縫って一人の男子高校生が駆けてくるのだ。しかも全力で。

若干小太りで背もそれほど高くなく、眼鏡をかけたその容貌からは、周りの目を気にする様子は全くうかがえず、学生服(学ラン?)を身に着けていることでバンカラな雰囲気を醸し出している。僕の偏見だが、鬼気迫る真剣さがかえってコミカルな印象を与えている。そんな高校生だ。

きっと乗り換えの接続がぎりぎりのタイミングなのだろうけれど、毎日のようにその光景を目にしていると、完全に一方的な親近感が湧いてきたのだ。まずもって彼が僕に気付くことはなく、走る自分を温かく見守っている人間がいることなど知る由もないだろうけれど。

思えば僕の中高生時代も学生服で過ごしていたし、彼のようにほぼ毎日電車に乗り遅れまいと全力で駅に向かっていたものだった。一心不乱に。自分のことだけを考えて。周りになど目もくれずに。

そんなまっすぐ前を向いただけの生き方は、通学時だけには限らなかったと思う。

でもそんな中でもきっと多くの人が僕のことを気にかけてくれたに違いなく、それに気づけないほど僕は若かった。でもそれは今になったから分かることであって、当時は自分のことだけで精いっぱいだった。生きるということについて真剣に考えているつもりだったし、それでも自分の進むべき道が見いだせなくて、もがく日々だった。今でも出来た人間ではないけれど、そんな日々を過ごしたおかげか実感として生きることが軽く感じられるようになった。

今日も彼を眺めながら自分が守られていたことを思った。

そして彼の走る先にある、多くの障害を思い、彼がそれを乗り越えていく過程で、ベンチに座る僕のことに少しでも思いを及ばせてくれたら幸せだなとも思った。

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